2012年9月7日金曜日
水滸伝十三(食べる読書122)
この巻を読んでいた時、毎日がいっぱいいっぱいだったからだろう…。
初めて、涙した。
そんなに好きではなかった。
朱仝が死んだ。
壮絶な死だった。
雷横とともに梁山泊へ入った。梁山泊ができる前からの同志である。
この二人は似てる。同じ境遇だからだろうか。
朱仝も、いま己のできることをひたすらやり続けることで、梁山泊を守った。
それぞれの場で、タイミングで…。
何も言えない…。
敬服するのみ…だ。
その死を、その生を、その背後にある志を、想おう。
以下抜粋
「私も、そう思います。人がいれば、どろ泥もできます」
「それを、どう扱っていくかが、政事の問題なのだろう」
「父子の情と、志。そのどちらが強いか、長い時をかけて、宋江にわからせたい」
「志を貫くことは、父子の情をずたずたにすることか。それは面白いな」
「ますます、俺の好みだ。宋江という男の志がどれほどのものか、親父の血で教えて貰おうと思う。人の躰を殺すより、心を殺す。俺は、そちらに関心がある」
「切り捨てなければならないものは、もっと多くある。この国には、無用というより、害になるものが、まだ多すぎるのだ。梁山泊とぎりぎりの闘いをすることで、それはすべてきれいになる」
貧困の中にいる人間が、聞煥章は好きではなかった。当人が悪いのに、他人や政事のせいにする。貧困だけは、それが許される、というところがあった。貧困は、自らのせいである。そこから抜け出そうと思えば、努力でなんとでもなる、と聞煥章には思えた。
そしてまた、貧困の中で立ちあがってきた人間には、どうしようもないこだわりが常につきまとう。時には、それが行動を律してしまう。
緊張していると、見えるものも見えなくなる
「ほんとうに正しいことなど、まずないと思っておけ」
「お互いに縁があって、ともに戦っているんじゃ。肚の底を見せる時は、見せた方がよいのう」
それぞれの出来事は見つめていく。それが全体の中でどういう意味を持っているか、もっとよく考える。
志があった。晁蓋がいた。宋江はまだいる。そして、戦友がいた。
死んだ者のためにも、自分は闘い続けるしかない。
返事をしようと思ったが、秦明は声を出せなかった。
「林冲」
「おう、朱仝」
林冲は、しっかりと声を出した。
「おまえだけには、謝らなければならん。俺は、おまえより先に死ぬ。悪く思うな」
「いいさ、闘い抜いた」
「さらば」
見開かれた朱仝の眼にあった炎が、吹き消したように消えた。
「隊長は、死んだ。みんなよく見ておけ。これが、漢の死というものだ。泣く者は去れ。気を引きしめろ。隊長のために、勝鬨をあげる」
「とにかく、任せるところは任せるという度量を持て、呉用」
「みんな、戦をしている。宋江殿も私も、そしておまえも。戦場で闘って、おまえは林冲に勝てるか。林冲が、おまえのやっている仕事ができるか。そこを考えてみろ。おまえは、もっと大きなところでさまざまなことを考え、実際にそれが行われる時は、現場にいる者に任せるのだ」
「逆だ、関勝。みんなの前で厳しく言うことで、ほかの連中があれ以上責めることをできなくした。そうだと俺は思うぞ。あの二人の呼吸は、そういうものだ」
「私は、生きていると思いたい。その思いを、全身で感じたい。つまらぬことで、惑わされたくもないのだ。私を圧倒するような敵と、全身全霊で闘ってみたい」
「似ている。私になにか欠けているように、おまえにもなにか欠けている。それでいながら、常に生きているという実感を求めてしまう。おまえを好きになれないのは、そういうものが見えてくるからかもしれん」
人は、測りようのない妖怪のような部分を持っている。同時に、凡庸としか言えない部分もある。
「よく見えた。人はなぜ生きようとするかも、見えた。国の姿と、人が生きようとすることが、実は重なり合うのだということも、いまよりよく見えていた」
「人とは、そういうものだ。それぞれが、生きていこうと思った場所がある。そこを動くことは、生きることを否定する場合でもある、と私は思う」
「戦はつらいな、童猛。ついさっきまで語り合っていた者が、死んで行く。自分が死んだ方がずっと楽だ、と私は思うよ」
以上
またね***
登録:
コメントの投稿 (Atom)
一枚の葉
今、私は死んだ。 そして、その瞬間、自我が生まれた。 私は、一個の生命体なのだ。もう死んでいるのだが。 死ぬことでようやく自己が確立するのか…。 空気抵抗というやつか。 自我が生まれたが、自身のコントロールは利かず、私はふらふらと空中を舞っているのだ。 私はこの樹の一部だった...
-
「竜馬がゆく」 文春文庫 司馬遼太郎 著 竜馬がゆく 全8巻セット (新装版) (文春文庫) ついに読み終わったあ~!!三ヵ月四カ月かかったかも…。八巻です。初めての歴史小説です。素晴らしい本に出会えました。というか、素晴らしい人物に会えました。竜馬に惹かれっぱ...
-
尺には尺を シェイクスピア全集 〔26〕 白水Uブックス (「…。どうだ痛い言葉だろう。」に対して) 「うん、その言葉が痛がっているところをみると、悪い病気がお前の口にきたようだな。今の自白を聞いたからには、俺は今後祝杯を回す時には先に失礼するぜ、お前が口をつけた杯に...
-
終わりよければすべてよし シェイクスピア全集 〔25〕 白水Uブックス 「神に吹き込まれた霊感も人間の息に吹き消されるのだ。人間は外見のみによって推し量るしかない、でも全知全能の神はまさかそうはなさるまい。天のご援助を人間の仕業だと思い込むとき、私たちは最も思いあがって...
0 件のコメント:
コメントを投稿