2012年8月20日月曜日
水滸伝十一(食べる読書118)
大事は小事の犠牲になってはいけない。
なにかを成す際、目的を見失わないため、普遍的な真理だ。
わが道を進むにあたり、これは一つの手段なのか、近道なのか、どうでもいいことなのか、見極めないといけない。
梁山泊の目的は何なのか。何を成すのか。
晁蓋と宋江の意見が分かれているが、梁山泊にとって一つの手段にすぎないように感じる。兵力三万か十万か。
数にとらわれ過ぎてはいないか。
戦に勝つことだけが梁山泊の目的ではないはずだ。戦に勝つのは、目的達成の条件の一つに過ぎないはずだ。
宋江はまだ、明確な国の形を示してはいない。
宋に代わる国をつくるなら、ここを明確にすべきだ。そして、この構想を形にする人物が梁山泊には欠けている。
戦に勝つことで人民の心を摑むのではなく、たんに宋が嫌だからということで梁山泊に取り込むのではなく、宋よりも民にとってよりよい国とはこういうものだということで人民の心を摑むべきだ。
税の扱い方や還元の仕方、他にも食い入る面はあるはずだ。
民のための闘いというのなら、民の新たな生活像を提案すべきだ。それが目的ではないのか。それなしで、三万、十万と唱えても何にもならない。
夢。
ただ、強いものと闘うことが夢だったのか…、晁蓋。
言いたくはないが、
晁蓋は、結局、小事でしかなかった。
晁蓋最期の巻。
以下抜粋
「戦で死ぬのではなく、むなしく死んでいく。それをやっても、揺るがない心を持った者を、私は必要としていた。これは、晁蓋殿や宋江殿に、知られてもならん。あの二人は、志の高潔さを失ってはならぬのだからな。私と二人だけで、暗殺というものが持つ、背徳に耐えられる心を保てるかどうか。そういう人間を、私は捜していた。そして、おまえを見つけた」
「いや。俺は、李俊殿が好きになってきた。人間ってのは、志だけじゃ飯は食えねえよ。だから志を捨てるってわけじゃねえが、きれいごとだけ並べて、戦ができるのかとも思うな」
「いいか、おまえら。隊長というのは、自分ですべてを済ましてはならん。時には、兵に女も抱かせてやらなきゃな。二人とも、それをよく頭に入れておけ」
「俺は、長く放浪を続けましたが、世間を知ってよかったと思ったことは、あまりありません。どこにも、人の愚かさや醜さが満ちていて、心を打つ者など滅多に見ることができませんでしたから」
ただ無頼に生きてきた。そしてそこから得たものはなにもなかった、といまにして思う。
「剣に、邪道などありません。それぞれの剣があるだけです」
「わかる必要はありませんよ。あなたにとって大事なのは、これ以上強くなることではなく、その剣を生かせる場所を見つけられるかどうかでしょう」
「わかっています。ただ暗殺の的にされる。それは運命が尽きかけているからです。それでも強いものがあれば、生から死へ押しやることはできない。尽きかけていれば、そこで死ぬ。運命に対する、ちょっとした手助け。それが、暗殺でしょう」
「わかるか。これが生きているということだ。泣きたくなったり、腹が減ったりする。おまえはまるで、自分が死んだような気になってしまったのだ。それは、死ぬ時は、人は死ぬ。しかし、おまえは生きている。おまえにできるのは、死んだ友のために泣き、そしてその男を忘れない、ということだけだ」
力が及ばなければ死。その覚悟をしているから、自分のやっていることはただの仕事より面白く、刺激的でもあるのだ。
「いや、徹底的に絞めあげたらしい。ただ、史進は強すぎる。多分、強いところで絞めあげる。杜興は、自分の弱いところで兵たちを絞めあげた。だから、憎んだり怒ったりはしても、恐れはしなかったのだろう、と私は思う」
夢があった。男として、その生のすべてを懸けるに値する、夢があった。
夢はやがて、少しずつかたちを持ち、いま、生きたものとして立ち上がろうとしている。間違ってはいない。なにが欠けているわけでもない。ただ、夢が充溢していただけだ。ほかのものが、入る余地などなかった。
「完全を求める李応の気持も大事だろう。完全とは夢のようなもので、行き着くことはないと思う。それでも、求めるがゆえに、前には進めるのだ」
志がどうのと、口で言ったりしてどうなるわけでもない。この男は、人を食ったやり方で、面白いことを試みる。そしてその底に、はっきりと志は感じられるのだ。
「死にたいわけではない。どうでもいい、と思っているだけだ」
「なら、死ねぬのう。死ぬのをこわがってもおらん。そういう人間は、死神も避けて通るんじゃよ」
「私は、おまえと同じなのだよ、聞煥章。自分の手で国を動かす。歴史というものも動かす。それが面白く、人生のすべてを懸けてやってみたいのだ」
以上
またね***
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