題名の通り、サブプライムローン問題を取り上げた小説。
今まで新聞や雑誌などからサブプライムに関する記事は読んではいたが、いまいちわからなかった。小説だからかもしれないが、この本はわかりやすかった。サブプライムがどういうもので、そのバブルがはじけた影響はどうなのかなど。
まあ、あれから数年たって振り返ることでどういう状況だったのか客観的に見れたからこういう小説が書けたとは思う。
が、以前も紹介した落合信彦さんの本。今回は小説。久しぶりに読みました。よかったです。
内容は、主人公荒木大河が2000年からウォール街で成功していくストーリー。いろいろ論じたい部分はあるが、今回はそんな主人公がどんな考え方、あるいは視点で世の中を見ているかについて本書のいくつかのシーンから考えてみたい。
「ムーディーズやスタンダード&プアーズが格付けの絶対的権威と思ったら大間違いだ。彼らだって利益を追求する民間企業だ。生き残るためにはうまく泳がなければならん。」
これは、9・11後市場を持ち直す原動力として不動産とデリヴァティヴが活況だった時、荒木の部下が不動産のサブプライムに投資を薦めにきた場面での荒木の一セリフ。いろいろなやり取りの中で格付けが良いという言葉に対してこう返した。
確かに普段我々は第三者の評価を基準にして考える場合が多い。だが、その第三者も実は本当に客観的な第三者ではないんだと目を見開かされる発言だと感じた。その第三者もひそかにプレイヤーの一人なんだと。
このやり取りの後半(P254~)で、荒木はサブプライムの借り手側の動向の一例を示す。そのことによってサブプライムに関係している人間はお互いに奪い合いをしているという。これまで貸し手側からの視点でしか語られず、借り手は被害者のように扱われていたが、実際はそうでもなかったのかもなあなんて思った箇所でした。
人間は結構ずるがしこい。でも、私自身は人間のそういうとこ、嫌いじゃない。人間らしいよなあ…。弱さを武器にする感じ。そればっかだと堕ちていく一方だけどね。
「あんたがたは分析能力が秀でている。同じ情報を見ても経済のプロとあんたがたとでは見る角度からして違う。プロは寸止め評価をするが、あんたがたはパンチを止める必要はない。結果は白と黒の差になって出てくる」
荒木が自社の調査部に対して仕事内容の変更を指示した時のセリフ。
これまで、この調査部の調査結果によって大きく儲けてきた。それは、儲けるにはどんな情報が必要で、それがどこにあるかがわかっていた。だから、結果が出せた。しかし、今後も結果を出し続けるには時代の変化に対応しなくてはならない。つまり、今後はどこが金を生み、どこが金を奪っていくのか、それらはどこなのかなど知らないといけない。そしてそれらの情報はどこを見ればいいのか。”現実には何が起こっているのか。”まずここを押さえないと何もできない。そのための指示。素晴らしい経営者だなあと感じた。
「利益を生まない会社を経営するのは犯罪を犯してるのと同じだと思っている。」
「利益を出すチャンスがあるのにそれをしないことこそビジネスマンとして倫理にそむくのだ」
「ここは大学の講義室ではない。理論では採点はされないのだ。経済理論と実質経済は違う。君は優秀なファイナンシャルプランナーだ。それなりの働きをしてみせろ。野暮な理論を振り回すのは大学生に任せておけ」
以上三つは、2006年サブプライム崩壊が始まったとみた荒木が開いた会議中でのセリフ。
サブプライム崩壊で市場が縮小する中、荒木は投機売買を決める。が、サブプライム全盛のときはそれとは反対の方針だった。そのことに関して部下とのやりとりの中でのセリフである。いつが攻めどきなのか、いつが動かざること山の如しなのか。この決定も、先にあげた調査部のレポートに拠る部分が大きい。
「アジャスト アンド アチーヴが求められる」
「リヴ アンド レット リヴの精神だよ。そして社員全員が百三十パーセント頭脳を使って利益は百パーセントを求めず八十パーセントで満足する」
「グリードは美徳なんかじゃない。とてつもなく醜悪なものだ。それが今回の危機が人類に教えてくれた最高のレッスンだったと俺は思いたい」
サブプライム崩壊後のグリーンスパンの証言を観てのエンディングのシーン。サブプライム後の人々の生きる指針として著者の出した答えが、上の荒木の発言であると考える。
人は、いや人類は失敗を繰り返して成長する。それは失敗から何かを学んだということ。確かに成長はジグザグの過程をたどる。今回のことで少し清貧がブームというかキーワードにはなるだろう。実際、一時期いろんな雑誌で清貧が取り上げられていた。しかし、清貧からは次なるステージは見えてこないんじゃないかと思う。
今回のポイントは、人の欲望はブレーキが利かないということ。まだコントロールできないということ。何か、そのグリードをコントロールできる仕組みか何かを作ればどうなるだろうか。難しいだろうが、それがこの時代に生きている人間に対する課題だと感じる。
とても勉強になりました。
また、トニー・スカリアを偲ぶ会の場面では涙があふれました。
私もこういうつながりを多くの人とつくります。
ありがとうございました。
以上
またね***
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