2012年7月31日火曜日

水滸伝九(食べる読書111)




ひとりの女のためにすべてを捨てる。


林冲はそういう男だった。


それが林冲らしいともいえる。


それが弱さでもあるし、魅力でもある。



梁山泊一の豪傑の、まさに人間らしい一面が見れて、何というか、人間の奥深さと広さを感じた。



鄧飛が死んだ。かつて、魯智深をひとりで救出し、今回は柴進を救出した。



こういう男は嫌いじゃない。



不器用で集団行動はとれないくらい我がつよいが、自分なりの芯を持つ。



心に響いた。この男の物語が。



以下抜粋


人に頼んで入ろうとする。それは間違いなのかもしれん。


宋江の夢。ふと思った。宋江とともに抱いた、歴史を変えようという夢。それさえも、自分は捨ててきていた。



「鋭いというより、読み方が違う。おまえは、事実を分析し、積み上げ、結論を出す。袁明様は、報告書を書いた人間を見ようとされる。つまり、弱いところを摑むのがうまい」



「威すしかあるまい。なんなら、人質を取るとか」
「それもよかろう。もうひとつ方法があるぞ、聞煥章。牢城にいる山師を使う。釈放という条件だけで、本気で働くだろう。いい山師を、まず牢城に放りこむ、という手もある」



ものが大量に動けば、疑心を抱く


国というものについて、自分は考える資格があるのか。志を、しっかりと抱ける人間として生きているのか。



無駄なことをいっぱいやって、なにが大事なのかわかるんじゃないか



もう走れない。そんな気が、しばしば襲ってきた。
自分はいつも、ここでやめた。そう思った。ここでやめるのは、途中で投げ出すということだ。そんな生き方しか、いままでしてこなかった。



「袁明は袁明で、志を持っている。いまは強くそう思う。宋との戦は、志と志の戦でもある。まことの正義など、誰にも見えておらん。自らが抱いた正義を、まことと思うしかないのだろう」



「なにが、軍法です。そんなものが、人より大事なのですか。それは、軍法が必要だと言って作ったのは私であり、否定するにはいくらか気後れもありますが、人がいてこその法だ、とも言えます」



「いや、ほんの些細なことだが、やさしさの中にいることが、楊令をしばしば戸惑わせているのではないか、と思う。楊令は、やさしさを求めてはおらん。強さを求めておる。しかし注がれるのはやさしさばかり、という状態ではないのかな」



「楊令は、強さがなにかも知らぬまま、ただ強くなろうとしている。梁山泊にいる限り、ずっとそうであろうな。強いが、その強さが歪んでいる。そういう成長になりかねんな。といって、わしに方策があるわけではないが。とにかく、梁山泊にいるかぎりは」


男なら、時には本心を剥き出しにせよ。それで駄目ならば、縁がないと思えばいい。


考えるだけでなく、決めるのだな


「気力を失う者が、二竜山に、いや梁山泊に多くなってはならぬ。みんなそれぞれに、働いているという自覚をも持たせることだ。それで、兵はいくらかは負傷も恐れなくなる」



「林冲、おまえは人の心のままに動いた。人が人の心を持てる国。これが、梁山泊が目指している国でもある。おまえは、人として間違ったことはしなかった。しかし、軍規というものがある。死罪は私の苦渋の選択なのだ。わかるな?」



「人として間違ったことはしなかったが、軍人として間違った。そういうこともあるのだと、私はいましみじみ思っている。人として間違っていないおまえを処断することは、私にとっては痛恨のきわみである。私は、自裁しようと思う。私が死ぬことで、はじめておまえに死罪も申しつけられる」



「全員が、林冲を罰するべきだと言う。しかし、死罪を望んでいる者はいない。軍規もまた、いたずらに人を死なせるためにあるものではない」



人は、正しいと思ったことをやれば、泣きたい目に遭うこともある。そう思った。



「人生も、捨てたものではないな、馬麟」



少しずつ特別ではなくしていこうではないか。それこそが、人の集まりというものだろう。特別であればあるだけ、その存在が消えた時、集団は危機に陥る。結成されたころと較べて、梁山泊は大きくなった。そういう時こそ、私の言ったことを考えるべきなのだ。小さいころは、まだよかった。梁山泊の質そのものも、変わるべきなのだ



「宋江は、いつも本気だ。愚直と思えるほどにな。だから、みんなが慕うのだ」



「自分をくやしがるだけでは、なにもできんぞ、李袞。やれることをやれ」



ほんとうに欲しいのは、自分が生き延びることなどでなく、仲間だった。ともに、闘える仲間。死んだら、泣いてくれる仲間。



「なんのために生き、なんのために闘うのか、わかっていない男だった。だから、誰もが持っている卑怯さ、臆病さが、自分のすべてだと思いこんでいた。小さな山だけを自分の世界にし、そこを拡げようとさえしていなかった」



この正直さは、将校としての資質と言ってもいい。強がりより、正直さの方が、よほど強く兵の心を摑む。



「ああいう若者が、この国には多くいるのだろう。気概を持った者は、自分で梁山泊を目指してやってくるだろうが、どういう気概を持てばいいかもわからず、ただ流され、それが耐え難いと思っている若者が。晁蓋殿、そういう者を見抜いて眼を開かせるのも、大事なことだ。眼さえ開けば、気概だけの者よりずっと本物になることもある」



商人は、志などではなく、利で動く。



名簿を読むだけでも、人の思いも生き方も、さまざまなものだと改めて思う。それが、志のもとに、ひとつに集まっている。こんなことがあるのだろうかと、信じられないような気分に、しばしば襲われた。



躰は鍛えているか。心が挫けてはいないか。自分を男と思えるか。
考えただけで、心がふるえた。



「急ぐ時ほど、肩の力を抜く。そうすべきだということが、私にもようやくわかってきたようだ」



「堅陣は、兵に安心を与えます。心に余裕のある兵は、なかなか算を乱しません」



俺たちはな、いま人のやれねえことをやろうとしている。わかるか。


「ここで、踏ん張るのよ。三日、四日眠らねえから、なんだってんだ。男はよ、語り継がれるようにならなきゃならねえ。わかるか、楊林。あいつはすげえって、みんなに言わせるんだ。いまだけじゃなく、俺たちが老いぼれても、死んでもな」



「俺が、命を預かる。無駄死はさせんが、死なせることをためらいもしない」



冷たい風が吹いていた。時々砂が舞うが、空は晴れている。
俺が、語り継ぐ。兄貴のことは、俺が生きているかぎり、語り継ぐ。
空にむかって、呟くように楊林は言った。





以上
またね***



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一枚の葉

 今、私は死んだ。 そして、その瞬間、自我が生まれた。 私は、一個の生命体なのだ。もう死んでいるのだが。 死ぬことでようやく自己が確立するのか…。 空気抵抗というやつか。 自我が生まれたが、自身のコントロールは利かず、私はふらふらと空中を舞っているのだ。  私はこの樹の一部だった...